人材ビジネスに関わったこの1 年。一番印象に残るエピソードは?
社会人経験がない、コミュニケーション力もない、ビジネスマナーもまだまだ、でも「やる気」がある彼らをどう支援することができるのか?こうした若者を救うために、クライアントとの連携を強化し、あきらめずに真摯にサポートすれば、必ず彼らは応えてくれる。人材ビジネスに携わる私たちだからこそ、人の人生を大きく左右する大事な役割を担うことができるのだと再認識できた経験です。
Sさん(当時26歳)とは登録時の面接で初めて会いました。父親から新聞で当社の記事を見て紹介され、遠方の群馬から出向いて来社してくれたとのこと。笑顔はなくガチガチ。伏し目がちで自信のなさがにじみ出ており、応対もぶっきらぼう。話の内容から地頭の良さは感じるものの、自分のことを「オレ」と呼ぶなど、常識に欠け、コミュニケーションスキルが不足していることが明らかでした。
某有名大学に入学後、一人暮らしを始めたが半年後から不登校が続き、結果として(親に内緒で)2年留年。3年次に親からの指示もあり一念発起し、なんとか頑張って単位を取得。ただ、卒業するのに精一杯で、結果として就職活動はほとんどせず、卒業後、公務員を目指し2度目の挑戦をするが合格できず、民間企業への就職を決意したとのこと。
人の役に立つ仕事がしたい、正社員として早く働きたいとの話でしたが、販売等のアルバイト以外は就労経験がなく、具体的にやりたい業務にはイメージがわかない様子。その後、いくつかの案件を紹介する中で、バイオエネルギー関連企業の求人案件に応募したいとの連絡があり、企業様へは本人の経歴や特性も事前に伝え、長い目で教育指導していただく必要があることも了解いただき面接をしていただけることとなりました。対面・TELで面接トレーニングを何度か実施し、一緒に対策をおこないました。面接当日は、副社長と専務にご対応いただきました。応対のぎこちなさはあるものの(ほぼ直立不動)、業界等の研究も含め非常によく準備しており、真面目に実直に取り組む姿勢をご評価いただき、派遣就労を開始することとなりました。
就労前に、ビジネスマナーやワード・エクセルのOA研修を受講してもらいましたが、講師からは自信がないせいか元気がない、自ら積極的に相手に働きかけない、敬語の使い方も×。…ただ、「知らない」だけで教えればできる素養はある、との評価でした。
先方ご担当者様と相談し、就労開始後も彼の指導を協働で行うこととし、日々の状況を共有しました。「朝一番に出社しコーヒーの準備や机の雑巾がけを一緒にしてくれている」、「ぎこちないが挨拶も皆にしている」、といった少しずつ会社に馴染んでくれているようだとの話もある一方、不在者宛の電話に対し「まだ来ていません」としか応えず、先輩社員に何度も注意されたり、先輩社員に突然ニックネームで呼びかけ怒られたり…といった数々の苦言もいただくことになり、都度双方から指導を続けました。
そんな中、正社員化への見極めの時期が近づいてきましたが、本人も周囲とのコミュニケーションが思うようにいかないことを悩み、どういう勉強をしたらよいのか相談してきました。それは勉強して身につく「スキル」ではないこと、また、ビジネスの中で対人関係を深化するには自分の思いをぶつけるのではなく、相手がどうして欲しいかを考えてから動くようにすることが重要であり、初めてのことばかりで効率が悪いことがあっても、それを抱え込むのではなく周囲に相談しながら少しずつ改善していけばよい、ということをクライアントとともに指導し続け、また講師によるマンツーマンでのフォローアップ研修なども行いました。
そうした教えが少しずつですが、彼の中に浸透したのでしょうか、彼自身も自分の周りに張り巡らせていたバリアを破り、研修で自信もついたためか明るい声で笑い、周囲と自然に会話できるようになってきたと。まだまだ一人前にはほど遠いが真面目にやってくれていることを評価され、長い目で見て採用いただけることになりました。「会社の財になっていただけるよう引き続きサポートしていきます」との温かいお言葉もいただき、正社員への登用をしていただけることとなりました。本人も照れながら「引き続き頑張ります」と。…うれしくて涙が出ました。
3ヶ月後、久しぶりにクライアントから状況報告がありました。「会社の雰囲気にもだいぶ慣れ、少しずつ打たれ強くなってきた感があります。まだまだ硬さがあり緊張しているように見えますが、笑う回数も増えてきています。対応力が出てきたのですね。専務は『Sさん、Sさん』と、一番よく声をかけ気にかけている様子です。」と。
その半年後、定期のご挨拶で訪問した際には、「Sさんは入札の書類作成などを担当しており、いないと仕事が回らないほどになっている、原石ではあったがよい人材を紹介してもらいありがたく思っている、また是非彼の後輩となる人材の紹介もお願いしたい」、とのコメントをいただきました。本人は照れ笑いをしていましたが、顔つきも少し精悍さが出て頼もしくなり、ひとまわり成長した姿を見ることができました。
そのエピソードで感じたこと、そのエピソードを通じて学んだことは何ですか?
「やる気」のあるスタッフがいたら、その気持ちに応え、こちらもあきらめずに対応すること。クライアントと協力して育てていく気持ちが共有できれば、ひとりの人間の将来をも変えることができることを実感しました。また、スタッフとともに一緒に併走する真摯な姿勢があればクライアントの信頼も得ることができます。
人材ビジネスで頑張る皆さんへー激励メッセージ
通常の派遣や人材紹介では「経歴」が売りとなりますが、就労経験の少ない若年層に対しては「やる気」と「ヒューマンスキル」の見極めが大事。目線を変え、母親のような気持ちで接することで、彼らの将来を輝かしいものにするお手伝いができるのは、人材ビジネスに携わる私たちだけが味わうことの出来る醍醐味だと思います!大変ですが一緒に頑張りましょう!
秋山 真希
2000年中途入社
総合企画、営業企画職を経てキャリアメイク支援室(若者キャリア応援制度運営部署)へ