私たちの活動 事例紹介・インタビュー

昏睡状態が続く中、職場の話をすると涙を流されているその姿に、どれだけ彼女にとって「仕事」が生きる希望になっていたのかが分かった。派遣スタッフだからと諦めることなく治療と仕事の両立ができたのは、ご本人、同僚スタッフ皆さんの「諦めない気持ち」、そしてその気持ちに気付けたことで私や会社も「諦めなかったこと」が、残念ではあるものの悔いのない見送りという結果に繋がったと実感している。

2015.11.24

人材ビジネス業界で働いてきて、心に残っているエピソードは?

私がIさんの担当になった時、Iさんは癌再発治療のため入院中でした。
勤務先のJ社で勤務開始1年後のことでした。その時は予定通り3ヶ月後に無事復帰。その後2年間、通院治療での定期的な休暇や遅刻はあったものの、安定的に勤務をしていました。
前担当者からの引き継ぎ事項として聞いていた、「あまり病状のことを話したがらない方」の言葉通り、更新面談の際、体調のことを聞いても「まあまあです」とか「なんとか」といった感じで、多くを語らない方でした。

J社の職場長からも「本音がわからない」「無理をさせていないだろうか?」等心配の声もありました。
そんなある日、Iさんから相談があるとのことで面談へ行くと、厚労省の「治療と職業生活の両立等の支援手法の開発」のモデルケースに参加したいので、協力してもらえないかとのこと。詳細資料を読んでみると医師の意見を元に、医療コーディネーターが間に入り、病状の把握と職場で配慮すべきことについてアドバイスを受けることができることがわかりました。病状の把握という点だけではなく、Iさんからの初めての投げかけに、その気持ちを受け止めたいと参加を決めました。
参加して5ヶ月、徐々に体調は悪化していました。この間、初めは医療コーディネーターからの情報提供をもとに、Iさんの病状が思った以上に良くないことを知りました。通常勤務ができていたことが不思議なくらいでした。Iさんからも抗がん剤の副作用の影響で、目が潤んでPCの画面がぼやけてしまう、自信がなくなってきた、ミスが心配等、気持ちを交えた話がでるようになっていました。
この時「もう、限界でしょうか?辞めないといけないでしょうか?」と初めて弱音を吐きました。でも、表情からは「辞めたくない」と言っていることが読み取れました。

同僚スタッフさんたちからは、「Iさんのフォローはみんなでするので、このまま続けさせて欲しい。担当業務変更をする等の策はあるはず」といった声が出ていました。
職場にIさんと他のスタッフさんたちの気持ちを伝え、職場長と対応を考えました。職場からは担当業務の変更と彼女の精神的負担軽減のためダブル、トリプルチェックを約束するとの言葉を頂き、本人にも伝え、また安心して仕事をすることができるようになりました。

このやり取りの3ヶ月後、東日本大震災が発生。この日を境に急激に体調が悪化。交通機関がマヒし、帰宅困難な状況下で、投薬時間の問題もあり、同僚スタッフさんたちに抱えられながら徒歩で帰宅をし、一気に体力を消耗してしまったとのことでした。
その後、出社できたりできなかったりが続き、その年の夏、体力回復のための入院をすることになりました。
職場も繁忙期が近づいていて、Iさんの代替スタッフを入れるべきかどうか、職場と何度も話し合いをしていました。同僚スタッフさんたちの「代替を入れずに残りのメンバーで頑張る。Iさんの戻れる場所を、社会との接点をなくさないで欲しい。」といった熱い思いを尊重し、「このまま本人が辞めたいというまではいつでも戻れるように待っていよう」ということになりました。
Iさんとは入院後、こまめにメールのやり取りができるようになっていました。その様子は職場にも伝えていました。
初めは私からの一方的な様子伺いや季節の話などでしたが、徐々に一時退院し自宅周辺を散歩していること、職場復帰に向けて頑張っている様子などを連絡してくれるようになりました。時には、「珍しく弱気になっている」と言ったような気持ちを語ってくることもありました。
また、同僚スタッフさんや私がお見舞いに行く度に、体調が上向きになって行くことがよくわかり、職場は一致団結。寄せ書きや声のメッセージを届けて、「復帰を待っている」と伝えていました。
何度かの入退院を繰り返した後、本人からの復帰予定日の連絡とともに届いた言葉は、
「みなさんのお見舞い、気持ちが本当に嬉しかった。あきらめずにできるところまで頑張りたい。大変な大荷物になりますが、どうぞよろしくお願いします。」
私とIさんとの最後のやり取りとなりました。
この直後、急変再入院。
昏睡状態が続く中、耳元で声をかけ、職場の話をすると表情が緩み、涙があふれてくるのを見た時、「職場」というものが、Iさんの生きる希望になっている、だから頑張っているのだと実感しました。
12月、感染症のため逝去。
残念な結果ではありましたが、職場の方、同僚スタッフさんたちみなさんにとって悔いのない見送りができました。

そのエピソードで感じたこと、そのエピソードを通じて学んだことは何ですか?

Iさんや同僚スタッフさんたちの「諦めない」気持ちに気付けたこと、そしてそのことで職場と私も「諦めなかった」ことが、この結果につながったのだと実感しています。
あのとき、同僚スタッフさんたちからの声がなかったら、Iさんと私の距離が縮まっていなければ、本当の気持ちに気付くことなく別の道を進んでいたかもしれません。
また、Iさんのそれまでの勤務振りや経験、知識が評価されてのことが大きかったのかもしれませんが、派遣社員だからと諦めることなく、治療と仕事を両立することができたことは、その場に居合わせた他のスタッフさんたちにとっても大きなことだったのではないかと思っています。

人材ビジネスで頑張る皆さんへー激励メッセージ

人を扱うこの仕事、相手が人だからこそ、思い通りに進まないことや、思いがけないことが起きます。そんな時は、一旦自分の考えから離れて、相手の話を良く聞き、気持ちに共感してみてください。そして、ひとりで思い悩まず、同僚や先輩・上司に相談をしましょう。きっと解決のヒントが見つかるはずです。

森 温子

株式会社 東京海上日動キャリアサービス本店営業第3部

2007年中途入社 東京エリア営業職として勤務

更新日時:2015年11月

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