個人の潜在的な可能性を引き出す転職支援におけるポータブルスキルの活用
【キャリア・コンサルタントの活用例】
岩瀬 薫子さん(株式会社リクルートキャリア キャリア・コンサルタント)
キャリアカウンセリングの場では、ポータブルスキルをどのように活用すれば、よりよい転職に生かせるのでしょうか。今回は、株式会社リクルートキャリアで、15年間にわたり転職を支援し続けているキャリア・コンサルタントの岩瀬薫子さんに、ポータブルスキルの考え方を活用した転職支援のし方について、お話を伺いました。
岩瀬さんのこれまでのお仕事を教えてください。
大学卒業後、株式会社リクルートに入社し、新卒採用媒体部門に配属されました。入社4年目に結婚を機に退社し、しばらく人材業界を離れていましたが、2001年3月に株式会社リクルートエイブリック(現・株式会社リクルートキャリア)に入社。以来約15年間、職業紹介に携わってきました。入社から8年間はIT業界の転職支援を担当し、その後、営業職や電子・機械・化学などの技術系の転職支援を担当。2014年から、ミドル・シニア層の転職支援を行う専任部署で転職のご支援をしています。
15年間、職業紹介に携わってこられたなかで、特にミドル転職市場に何か変化は感じますか。
10年前は、一般的に35歳以上の転職はマネジメント経験がなければ難しいと言われ、実際の案件や人事担当者のご意向もそうでした。しかし、組織のフラット化によるマネジメントポストの減少などを背景に、今や40歳プレーヤーは珍しくありません。そのため、40歳過ぎまでプレーヤーとして頑張ってこられた方でも、十分転職できる状況になってきたと思います。
とはいえ、ミドル層を対象とした案件は若年層に比べて少ないことや産業構造の変化もあり、これまでやってきた仕事の業種・職種をそのまま生かせる仕事への転職が難しいことに変わりはありません。一方、求職者ご自身はある業種や職種一筋に働いてこられ、今さら業種・職種を変更できないと思っている方も多くおられます。中には、「もうどこにも転職できない……」という失意のなか、相談に来られる方もいらっしゃいます。ですから、ミドル層の転職支援では、これまで培った力で転職できると気づき、自信を持っていただけるよう心掛けています。
具体的にどのようなコミュニケーションを取っているのですか。
まずは、社会人1年目からの仕事の経験を詳しく話していただきます。ヒアリングのポイントは、「○○業界で営業をやっていた」といった表層的なことだけでなく、「具体的な日々の仕事内容や人・組織との関わり方」を聞き出すこと。そこで、エピソードのなかから、ポータブルスキルといえる能力を抽出・言語化し、フィードバックします。
例えば、シャンプーなどの薬品が体に合わず美容業界を辞めざるを得なかった美容師の方の場合、下積みからはさみを持てるようになるまでのエピソードやコンテストで入賞した話、お客様の髪型の要望への対応などを聞き出します。その経験談のなかに、「人一倍努力家で新しいスキルを身に付けるのが早い」「年代に関係なく話せる力、顧客の要求の真意を上手に吸い上げる力がある」など、美容のテクニカルな面だけでなく、人や組織との関わり方における力を見出してご本人に伝え、それを職務経歴書にも書いてもらうのです。あとは面接を想定して、転職希望先の企業で求められる専門スキルをどう習得・カバーしていくかなど、転職先の要件との差をどのように埋めるかを明確にします。
業界や製品の専門知識は、入社後にキャッチアップしていただければたいていは大丈夫です。一方、人や組織との関わり方は社会人としての基礎力であり、業界を越えて生かせます。求職者の方にそう伝えると、「自分の力は、他業界でも通用するのですね」と自信を持っていただけます。
少子化で労働力が減少の一途を辿る今後、ミドル層の活躍はますます求められるでしょう。特に成長ステージや変革ステージにある企業には、多様な経験を積んだ百戦錬磨の“ミドルのチカラ”が必要です。ミドル層の方には、業界・職種を越えてより一層活躍していただきたいと思います。
岩瀬さんのように、ポータブルスキルの考え方をうまく活用して転職支援を行うには、どういった工夫が必要だと思いますか。
まず、ポータブルスキルの活用以前に、企業の事業活動や個人の人生に興味を持つということが不可欠です。採用をお手伝いしている企業の沿革や事業内容も理解せずに訪問して、突然ポータブルスキルシートを出しても、決して活用などできないでしょう。個人に対しても、なぜその仕事に就こうと思ったのかについて、その人の歩んできた時代や環境などを踏まえて想像し、理解しようとすることが何より大事です。それができれば、ポータブルスキルの概念の理解はそう難しいことではないので、活用が進むのではないでしょうか。
ポータブルスキルの活用を含め、キャリア・コンサルタントとしての今後の抱負を教えてください。
どんな人にも無限の可能性があります。しかし、転職の場面では、年齢や性別、業界経験、専門スキルなどといったフィルターをかけられてしまうことがまだまだ多い。そんなときに、「それは単なる先入観で、間違っていますよ」と企業と個人の双方に中立的な立場で指摘できるのが、キャリア・コンサルタントの存在価値なのではないでしょうか。企業や個人に対して、キャリア・コンサルタントが先入観を取っ払い、彼らが持つ潜在能力を最大限に引き出すこと。それが個人や企業、ひいては日本を元気にすると信じています。
株式会社リクルートキャリア
キャリアアドバイザー(キャリア・コンサルタント)