キャリアチェンジプロジェクト ポータブルスキル活用のヒント

入社後に活躍できる人の採用を可能にする
ポータブルスキルの提案・活用方法
<法人営業担当編>

求人と求職者のマッチングの観点として、従来、重視されている専門知識や専門技能だけでなく、仕事のし方・人との関わり方というポータブルスキルも重視することが大事です。ポータブルスキルを把握するには、ミドルマッチフレームの活用が有効です。とはいえ、具体的にどのようなタイミングでどのように求人企業に説明して使えばよいのか、イメージがわかないという人も多いのではないでしょうか。

そこで今回、30年以上にわたり、キャリアアドバイザー、キャリア・コンサルタント、求人広告営業など幅広い職種を通して人材業界に携わってきた株式会社リクルートキャリアの柴田教夫氏に、現場におけるミドルマッチフレームの基本的な活用方法とそのメリットについてお話を伺いました。

shibata

株式会社リクルートキャリア
柴田 教夫 氏

求人と求職者のマッチングの観点として、従来、重視されている専門知識や専門技能だけでなく、仕事のし方・人との関わり方というポータブルスキルも重視することが大事です。ポータブルスキルを把握するには、ミドルマッチフレームの活用が有効です。とはいえ、具体的にどのようなタイミングでどのように求人企業に説明して使えばよいのか、イメージがわかないという人も多いのではないでしょうか。

そこで今回、30年以上にわたり、キャリアアドバイザー、キャリア・コンサルタント、求人広告営業など幅広い職種を通して人材業界に携わってきた株式会社リクルートキャリアの柴田教夫氏に、現場におけるミドルマッチフレームの基本的な活用方法とそのメリットについてお話を伺いました。

ポータブルスキルが企業に提供できる2つの価値
~入社後活躍する人の見極めと選考品質の保持~

ポータブルスキルを用いた視点での採用は、専門知識や専門技能といった専門能力の観点に加え、仕事のし方・人との関わり方を把握することになるため、職務遂行能力にもスポットを当てた採用が可能になります。また、ポータブルスキルは、多くの企業の人事評価指標に近いフレームであるため、入社後に活躍してくれるかどうかという観点での採用活動も可能にします。したがって、「専門スキルに加え、ポータブルスキルを使って入社後に活躍してくれる人を見極め、より精度の高いマッチングを目指しませんか?」と、採用選考場面でポータブルスキルの活用を提案するのが効果的です。

しかし、耳新しい「ポータブルスキル」なるものを提示されても、すぐ納得される求人企業担当者ばかりとは限りません。そこで、併せてご説明しているのが、次の2つの調査結果です。1つは、業種・職種をまたいだ転職がその後の活躍に影響しているかどうかを示したもの(図1)。もう1つは、「採用時の決め手となったポイント」と「採用時にもっと評価しておけばよかったポイント」を示したものです(図2)。

例えば、「即戦力を採用したい」というご要望に対して、通常は「同業種・同職種の経験者を狙いましょう」と提案する流れになるかと思います。一般的に、同業種・同職種の専門知識・技能があれば活躍してくれるだろうという期待が大きいためです。しかし、図1を見ても明らかなように、入社後の活躍ぶりは転職前後で業種・職種が変化してもしなくても、ほぼ差はありません。この図を示して「同業種・同職種だからといって活躍するとは限りませんし、異業種・異職種だからといって活躍できないとも限らない」とご説明すると、多くの担当者が「確かに。これまで当社で採用してきた方もそういえるかもしれません」と共感されます。

図1 転職後に活躍している人の割合

さらに、図2の左側の「何を評価して採用に至りましたか?」を見ると専門職種や業界の知識や経験の割合が最も高いのですが、右側の「採用時にもっと評価しておけばよかったと思うものはありますか?」を見ると、「人柄」や「専門性以外の職務遂行能力」の割合が高く、これらがいかに採用後の活躍に大きな影響を及ぼしているかが読み取れます。

図2 企業が採用時に評価する項目と、採用後になって評価すればよかったと思う項目

これらの結果からも、入社後に本当に貢献できる人かどうかを見極めるには、その業種や職種の専門知識・技能だけでなく、その人がどのような仕事の進め方をするのか、どのように人と関係を構築していくのかといった点も、しっかり見ていく必要があるといえます。募集段階から、「仕事のし方」「人との関わり方」を可視化し、それぞれについて顧客企業が求めているポイントを明記しておくことをお勧めします。

9割以上の企業は好反応
無意識に面接の評価指標にしているケースも

これまで数十社に対する営業場面で、これら2つの調査結果とともにポータブルスキルシートをご提示してきましたが、人事担当窓口を含め9割以上の企業に抵抗なく受け入れていただけました。経営者かそれに準ずる方々からは特に、「仕事のし方・人との関わり方の項目は、弊社で使っている評価指標とほぼ同じだ」と、納得感の高い反応が返ってきます。周囲にいる営業担当者からも拒否された例は聞きません。

また、それと自覚されないままに、ポータブルスキルに近い評価指標を書類選考や面接で用いておられる求人企業もかなりあります。

某大手SIerでは、専門性の保持を重視し、同業界の経験者限定で基幹システム開発のスキルをお持ちの方を探しておられました。ところが、条件に合う同業かつ専門スキルの持ち主をご紹介しても、どなたも面接で不採用になるのです。理由は、「専門スキルという点では申し分ないが、“どこか違う”」から。その理由の部分をどうもうまく言語化できなかったため、改めてポータブルスキルの観点で確認させていただきました。すると、面接担当者は「これは社内で使用している評価指標と同じだ」と共感を示され、「これまでの面接を振り返ると、無意識のうちにこの指標で求職者を見て判断していた……」と気づいてくださいました。入社時の職種に限らず、将来の異動に耐えうる可能性を視野に入れておられたのです。その後、同社では、募集段階から求めるポータブルスキルも明記し、応募者を絞り込むように変更。専門スキルとポータブルスキルの両面から見てマッチした候補者が推薦されるようになりました。

この例のように、求人票の段階で専門スキルのみが前面に押し出されていても、実際には仕事の進め方や人との関わり方といった観点で求職者を見ているケースは少なからずあります。大手企業では、面接時から将来の異動を視野に入れ、専門スキル以外の職務遂行能力や人柄を見ることがあります。一次面接では、現場責任者が専門スキルを判断し、最終面接では、人事部長が自社の社員としてふさわしいかどうかをその力量や人柄から判断する。このように役割分担をすることも多いです。一方、中小企業では、高い専門性を持つ候補者が、社長面接で不合格になってしまうケースがしばしば生じます。この場合の多くは、期待する人物像や役割が言語化されていないものの経営者の頭の中には存在しており、その評価軸で面接されています。こういった評価軸を言語化・可視化し、明確にできると、複数の面接担当者が存在する場合でも判断基準が容易に共有でき、判断の再現性も高まります。

以上のように、専門スキルに加え、ポータブルスキルを把握し、これを可視化・共有すると、人事や現場責任者、経営陣が共通の言語を使用できることから、それぞれの理解が深まり、納得感も高まります。また、入社後に活躍する可能性の高い人を見極められ、効果的・効率的な採用が可能になります。さらに、仕事内容を専門スキルだけでなくポータブルスキルの面からも解析することで、より役割が鮮明になるため、候補者を絞り込むだけでなく、広げることも可能になる場合があります。スペースの関係で具体例の紹介は割愛しますが、“MUST”だと思っていた業界や職種による縛りが不要であることが判明し、同業種・同職種ではないけれど採用した人が活躍されている事例は多く生まれています。

もちろん、ポータブルスキルは、“これがあれば万事うまくいく”という万能薬ではありません。しかし、入社後の活躍の可能性を高める指標として活用していただくことで、より効率的で精度の高いマッチングを実現する一助となることは間違いないでしょう。ですから臆せず、求人企業のご担当者に提案いただきたいと思います。

柴田 教夫 氏
株式会社リクルートキャリア
事業開発部 ミドルシニア業域開発グループ
リクルートグループで33年勤務。リクルート本体の新卒および中途採用を担当後、本社総務課長、転職情報誌営業所長、子会社(現リクルートキャリア)で管理部門のシニアマネジャーを歴任。2000年よりキャリアアドバイザーとして、40、50、60代のカスタマーを担当し、6,000人余りの転職希望者のサポートを通じて、1,000人近いご縁を紡いできた。