主体的キャリア形成 × 需給調整機能の高度化 — 2025年度の成果と2026年度の方針 —
2026年3月13日
一般社団法人 人材サービス産業協議会(JHR) ソーシャルバリュー推進委員会
1. ソーシャルバリュー推進委員会の役割と活動の背景
人材サービス産業協議会(JHR)は、社会の変化や企業・働く人々の期待に応えるため、職業紹介・人材派遣・業務請負・求人広告といったビジネスモデルの枠を超えて、働きやすく雇い入れやすい「健全かつ円滑な次世代労働市場の創造」を目指して取り組んできた。
その中でもソーシャルバリュー推進委員会は、主体的キャリア形成の促進とマッチングの高度化を通じて労働市場の質的向上に寄与することを目的に、2025年度より活動を進めてきた。
2025年6月には『主体的キャリア形成マッチングのススメ』をリリースし、個人の主体的キャリア形成、そして企業における開示・運用のあり方についてのガイドブックを作成した。続いて9月には会員企業向けの勉強会を開催し、10〜12月には有志参加者との3回にわたるワークショップを通じて、実装に向けた課題や現場での工夫に関する議論を深めた。
本レポートでは、2025年度に実施した取り組みの概要と、2026年度に向けた活動方針を整理するものである。
2. 2025年度の取り組み
〜ガイドブックから実装議論までの歩み〜
2025年度、当委員会は「主体的キャリア形成マッチング」をより広めるため、段階的に活動を展開してきた。
2025年度 主な取り組み
2025年6月
ガイドブック『主体的キャリア形成マッチングのススメ』発行

転職後の満足度や活躍実感にキャリア形成意欲がどのような影響を及ぼすかを明らかにする調査を実施し、その結果をもとに、人材サービス企業向けに転職者支援のあり方を示した「主体的キャリア形成マッチングのススメ」ガイドブックを発行。
調査により、企業はキャリアプランを一方的に提示するのではなく、キャリアパスや成長機会、評価制度などを透明性高く開示し、個人が自分に合ったキャリアを選択できるよう支援することが重要であることが明らかになった。
さらに、こうした情報開示と求職者支援の充実が、転職・採用の成功や転職後の活躍、企業成長を左右する要因であることも分かった。人材サービスには、求職者が主体的にキャリアを選べるよう情報提供とサポートを強化し、企業と個人双方の成長につながる環境づくりを支える役割が求められていることが示された。
※参照:「主体的キャリア形成マッチングのススメ」ガイドブック」
2025年9月
ウェビナーの開催(約240名参加/満足度90%超)
法政大学キャリアデザイン学部・坂爪洋美教授による「主体的なキャリア形成を支える:企業・労働者・支援者に期待される役割と連携」をテーマとした講演を実施。
加えて、『主体的キャリア形成マッチングのススメ』の理念に基づき、アデコ株式会社による「カルチャーやビジョンも伝えるマッチング」、エン株式会社による「入社後活躍を重視した求人原稿の工夫」などの取り組み事例を共有した。
▼成果(わかったこと)
今後の人材サービス業には求職者・企業双方の意思決定の質を高める役割が期待されていること、そしてガイドブックの総論理解に加え、現場での具体的な事例や実装イメージが不可欠であることが明らかになった。「現場でどう活かすか」への関心の高さも示された。
2025年10〜12月
ワークショップの開催(全3回)

派遣・紹介・メディア・BPOなど多様な人材サービス会社から21名が参加。
10月開催(第1回)/テーマ:求職者支援
主体的キャリア形成意欲を引き出す支援方法や、価値観・働き方に応じた情報提供の在り方について議論した。また、AI利活用が進む中での人材サービスの価値提供の方向性についても意見交換が行われた。
▼成果(わかったこと)
求職者との対話の質を高める支援スキルや、個々の価値観に寄り添った情報提供が、主体的な意思決定とマッチング精度の向上につながるという共通理解が得られた。
11月開催(第2回)/テーマ:求人者支援
企業人事担当者を招き、自社従業員の主体的キャリア形成の取り組みや経営戦略との関連、現場の課題感について話を伺った。そのうえで、求職者に適切な情報を提供するために人材サービスがどのような支援を行えるかを議論した。
▼成果(わかったこと)
企業が抱えるリアルな課題を踏まえたうえで、求人情報の透明性向上や「入社後活躍」を意識した情報設計の重要性が明確になり、人材サービス側の支援の方向性が具体化した。
12月開催(第3回)/テーマ:自社サービスへの実装
アデコ株式会社 川崎健一郎氏を招き、人材サービスに求められる役割や期待について講演いただいた。参加企業間で、自社サービスへどのように展開し実装するかについて議論を深めた。
▼成果(わかったこと)
主体的キャリア形成を支援する考え方を自社のサービスフローに落とし込むための具体的なアクションや改善ポイントが共有され、実装に向けた現実的なイメージが共有された。
2025年度の取り組みから得られた主な示唆
2025年度のガイドブック公開、ウェビナー、ワークショップ(全3回)を通じて、主体的キャリア形成をめぐる課題と、人材サービスが果たすべき役割について多面的な示唆が得られた。
3-1. 主体的キャリア形成には「時間軸を踏まえた支援」が不可欠である
議論を通じて、主体的キャリア形成は短期間で完結するものではなく、中長期の時間軸を前提に継続的に支援する必要があるという認識が共有された。また、求職者が求める情報は多様であり、価値観、キャリア観、働き方の志向、ライフステージ、などに応じて異なる。
そのため、時間軸を踏まえた「成功の定義」を明らかにしたうえで、必要な情報を提示することが重要であることが確認された。
3-2. 企業側の浸透度によって必要なアプローチは異なる
企業側の主体的キャリア形成支援については、すでに施策を実施している企業、取り組み始めたばかりの企業、必要性を感じていない企業など、浸透度に大きな差がある現状が明らかになった。
このため、企業の状況に応じて、情報開示の方法、求職者への説明内容、人材サービスが支援すべきポイントが異なるという課題が示された。
3-3. 求職者は「論拠ある情報開示」を強く求めている
ワークショップでは、求職者側の視点として、データや根拠に基づいた情報開示を企業に求める声は強いことが共有された。透明性の高い情報は、求職者の納得度、向上ミスマッチの低減、結果としての採用強化、につながるという示唆も得られた。
3-4. 人材サービス会社自身も「成果とのつながり」を示す必要がある
人材サービス会社にとっても、キャリア支援や情報開示の質向上が、マッチング成功、定着、入社後活躍といった成果にどのようにつながるのかを可視化し、説明できることが重要である、という課題が明確になった。これは、企業からの信頼獲得や、人材サービスの価値発揮を示すうえでも不可欠な視点である。
3-5. 総括:主体的キャリア形成支援は「三者の協働」で成立する
これらの示唆を総合すると、主体的キャリア形成支援は、個人(求職者)、企業(求人者)、人材サービスの三者がそれぞれの役割を果たしながら協働することで初めて成立する取り組みであることが浮かび上がった。2025年度の取り組みは、その前提となる課題と方向性を共有する重要なステップとなった。
4. 2026年度に向けた展望と実装への課題
2025年度の取り組みを通じて、主体的キャリア形成を実務へ落とし込むうえでの課題と方向性が明らかになった。特に、求職者・企業・人材サービスの三者が連携し、時間軸を踏まえた支援と透明性の高い情報提供を進める必要があるという認識が共有された。
2026年度は、これらの学びを踏まえ、業界全体で実装に向けた検討を進めていく段階に移行する見通しである。まず、ワーキングプロジェクトを再組成し、法人向けの実践的なツールや事例開発に取り組むことが検討されている。これはガイドブックを補完し、各社が自社の状況に応じて主体的キャリア形成支援を推進できる土台づくりを目指すものである。
また、業界横断で課題や知見を共有し合うコミュニティの稼働や、行政との連携を強化し、「人材サービスの質向上」の重要性を社会に発信する取り組みについても検討を進めていく。
2026年度は、JHR主導ではなく、支援する形で、各社が自律的に取り組みを進め、その成果を共有し合う環境づくりを進めていき、これらの取り組みを通じて、人材サービス産業が労働市場の質向上に寄与していることを、社会に対して発信できるような活動を進めていく。
本件に関するお問い合わせ先
一般社団法人 人材サービス産業協議会事務局
E-Mail:info@j-hr.or.jp