人材サービス産業の役割
人材サービス産業は労働市場の需給調整機能として4つの大きな役割を果たしてきました。
失業を経ない転職の実現、転職コストの軽減
第一の役割として、個人の転職コストを軽減させたことが挙げられます。すなわち、個人が自己の情報網を通じてしか入手できなかった求人情報を、人材サービス産業が幅広く収集して流通させることで、誰もが入手可能なものにしたのです。
求人広告サイトで求人情報を収集したり、求人企業とのやりとりを職業紹介会社に任せたり、派遣会社に就業先の開拓や就業の交渉を依頼できるため、前職を離職せず、求職活動に時間をかけなくても希望する就業先を探すことが可能となりました。
このような就業機会を得るために必要な情報収集等にかかるコスト(費用・時間)を大幅に軽減したことが、就業機会の探索期間の短縮と失業を経ない転職(On the Job Search)につながります。
成長産業への労働移動の促進
成長産業への労働移動にも、人材サービス産業は多くの貢献をしてきました。2000年代の労働移動を分析したところ、人材サービス産業を経由した転職では、ハローワークや縁故などの経路を利用した転職に比べ、サービス業や情報通信業への移動を多く確認できます。
建設業や製造業に従事していた場合、正社員への転職では情報通信業へ、正社員以外の雇用形態への転職ではサービス業への転換が多く、情報通信業に正社員として転職する場合は、情報通信業以外のあらゆる業種からの移動が多いことも確認できます。
成長産業への労働移動に人材サービス産業が貢献できる理由として、成長産業においては、知名度の低い新興企業などが多く、採用業務に多くの資源を割くことができないため、人材サービス産業を利用するニーズが高くなるのです。
労働市場への参入・再参入の支援
就業を希望しているにもかかわらず、就業機会が得られなければ、失業者の増加や人的資源の損失をもたらします。人材サービス産業は、それまで働いていなかった就業希望者が労働市場に参入する際にも、大きな役割を果たしています。
人材サービス産業はこれまでに、女性をはじめとした多様な就業希望者の就業機会開発に取り組んできました。特に派遣事業や請負事業は、人材サービスを活用するユーザー企業に対し、派遣・請負社員の配置後のフォローも含め就業管理を担っていること、就業者の就業可能性に合った多様な仕事を開拓できることなどから、企業による直接雇用の形では労働市場への参入・再参入が難しい層に対して参入・再参入を容易にする役割を担っています。
例えば派遣事業について見てみると、一般的には女性の就業率は20代後半をピークとして減少し、40代で再び上昇する、いわゆる「M字カーブ」が存在しますが、女性の派遣浸透率(雇用者に占める派遣労働者の割合)は、M字の底にあたる30代が最も高くなっており、派遣会社が介在することで、これらの層の持つニーズに対応する新たな就業機会が開発されているといえます。
啓発活動による公正な採用の促進
人材サービス産業は、就業希望者と企業双方に、情報の提供をはじめとしたさまざまな働きかけを行うことができます。とくに、適正・公正な採用を実現するために、企業に対して法改正を迅速に伝えるなどの啓発活動に力を入れてきました。
具体的には、求人情報と実際の就業条件の違いをなくすための啓発や、採用・募集における男女差別の撤廃、障がい者の就業機会の拡大のための啓発等です。このような取り組みは、業界として継続的に実施しています。