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業界初!中途採用の年収相場がわかる『転職賃金相場2017』。その意義と活用の仕方に迫る。

2018.03.08

『転職賃金相場2017』がリリース。

2017年12月、人材サービス産業協議会(以下「JHR」)は、『転職賃金相場2017』を発表し、人材サービス関係者はもちろん、求職者、行政関係者、研究者の方々など、多方面から注目されています。

 この『転職賃金相場2017』は、国内の代表的な人材紹介会社3社、求人メディア4社の実務担当者と有識者をメンバーとする「賃金相場情報提供に関する研究会」で約1年にわたって議論・検討し、作成したものです。

その研究会の座長を務められた佐藤博樹教授にお話を伺いました。

(聴き手:JHR事務局 川渕香代子)

実際の「転職市場」の動きが分かるデータ。

—職種別の年収に関するデータというのは、公的なものや民間でも数多く出されていますが、この『転職賃金相場2017』の特徴はどこにあるでしょうか?

 確かに、年収ランキングや業種別・職種別の平均年収といった情報は多くあります。そのほとんどは、在職者、つまり実際にその仕事で働いている人が得ている年収額をまとめたものです。一方で、『転職賃金相場』は、「転職市場」、つまり、中途採用市場に実際に出されている求人内容をもとにした賃金データをまとめているので、市場の動きがわかる内容と言えます。

 

—中途採用市場の動きが分かるという点について具体的に教えてください。

 まず、『転職賃金相場』は、求人案件数の多い職種にフォーカスしています。それはつまり、「いま、どのような職種で人材が必要とされているのか」、市場ニーズが高い職種が何かがわかるということがあります。

次に、募集時の年収幅を示しています。これは、企業は、その職種で人を採用するためにどのくらいの年収を提示しているのか、ということです。もちろん、これからその職種で募集しようとしている企業にとっては、用意すべき年収額の目安になりますし、求職者にとっても、その職種でどの程度の年収が得られそうなのかが具体的にイメージできるということがあります。もしかしたら、現在もらっている年収がこのグラフよりもかなり低く感じられたら、転職をしようという動きになるかもしれませんね。

企業と求職者を仲介する人材サービス企業にとっても、双方に助言するうえで大いに参考になるでしょう。『転職賃金相場』は、これまでの平均年収に関する情報には無い画期的なものであると思います。

人材サービス企業や求職者にとっての活用方法は?

—人材サービス企業が活用する場面について、さらに詳しく教えてください。

ご覧いただくとわかるように、年収の幅を示すグラフの下には、年収帯ごとの定性情報、スキルや経験、職務内容などを示しています。これは、主要な人材紹介会社からの情報を基に、実際にその職種のこの年収で転職が決まった人はどのようなスキルや経歴をもっているのか、どのような職務内容なのかをまとめたものです。

たとえば、提示する年収と求める人材像との間にギャップがあれば、採用はうまくいきません。紹介会社は、このデータを基に、求める人材のスペックがこうならば、これくらいの年収を提示しないといけないですよ、と客観的に説明することができるのではないでしょうか。 

図2:年収帯ごとの定性情報例(「人事」職)
年収帯ごとの定性情報例(「人事」職)

—求職者個人がこれをみて、もう少し今の職場で頑張ろうとか、このスキルを身に着けようとか、キャリアアップに関するより明確な目標設定もできますね。

その通りです。希望する年収を得るには、これくらいのスキルと経験が必要だということがわかるので、もう少し今の職場で経験を積もうとか、スキルアップを目指そうと思うのではないでしょうか。その意味では、転職を後押しするだけではないと思います。

実際に転職をする場面でも、これを参考に自分のスキルと経験から、希望年収をより明確に伝えることができるでしょうね。

職種によって年収幅の大きさに違いが。

—今回取り上げた職種について、特徴的なことなどはありますか?

大きく2つに分かれると思います。管理系の職種では年収幅が大きく、技術系の職種では幅が小さいということがわかります。これは、例えば、ひとくちに「人事」と言っても、採用の補助から制度設計など、初歩的なものから高度なものまで幅が広いということが理由だと考えられます。また、管理職か否か、管理職経験の有無も年収の高低に影響していると思います。一方で、技術系の職種では、管理職経験はあまり求められず、スキルで明確にテーブルができているため、そんなに大きな差がありません。

実は、この調査のきっかけは、同一労働同一賃金の議論があったからなのですが、現状わかる範囲では、ホワイトカラー職種では特に、職種以外の軸、業務の難易度や経験年数、管理職責任の有無などまで考慮しなければ同一労働同一賃金を実現することは難しいと思います。

 

図3:人事職
人事職。年収の幅は広い。
図4:エンジニア(組込、制御系SW)職
エンジニア(組込、制御系SW)職。比較的年収幅は狭い。

 

—トレンド職種はどのように選んだのでしょうか?

研究会のメンバーの意見を参考に、人手不足が著しい職種という観点で選びました。ただし、ビッグデータに関しては、1年前に試験的にデータを集めたときに比べて、年収幅の下限がやや下がっていました。これは、人手不足のため、求めるスキルがなくてもポテンシャルで採用し、研修等でカバーするという動きが出てきたためのようです。

 

—2018年度版の公表予定はいつ頃になりそうでしょうか?

今年度と同様に転職の動きが活発になる年末頃を考えています。

 

2018年度版ではどのような職種が取り上げられるのか楽しみですね。

ありがとうございました。

 

【プロフィール】

■中央大学 ビジネススクール 大学院戦略経営研究科 佐藤博樹 教授

社会学修士(一橋大学)/法政大学経営学部教授、東京大学社会科学研究所教授を経て現在、東京大学名誉教授。兼職として、民間企業との共同研究であるワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト代表、内閣府・男女共同参画会議議員、経産省・新ダイバーシティ経営企業100選運営委員長などをつとめる。

http://www2.chuo-u.ac.jp/gakuinkai/jiho/pickup/gakuin498_online04.html

『転職賃金相場2017』調査概要

・調査対象期間:2017年4~9月
・対象エリア:首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)、東海(愛知・岐阜・三重)、近畿(大阪・京都・兵庫)
・データ出典元:国内主要求人メディア(募集時年収)、人材紹介会社(募集時年収・定性情報)
・集計方法と掲載内容:上記対象期間・エリアに該当する求人情報における職種ごとの①募集時最低年収の中央値②募集時最高年収の上位15%位を各社から集約し、その最低値~最高値までの範囲を棒グラフで示した。また、人材紹介会社からの情報を基に、首都圏における、一定の年収帯ごとの採用が決定した者の特徴について定性情報として記載した。
・対象職種:各社の正社員中途採用求人広告及び求人依頼件数の上位職種に共通してみられる12職種、ならびに労働市場において注目度の高い職種として新規性の高い「ビッグデータ・データサイエンティスト」、人材不足感が強く採用難度が高い「施工管理」、「販売・飲食系店長(店長候補含む)」を選定した。

 ※『転職賃金相場2017』は、当協議会WEBサイトからどなたでもダウンロードしてご覧いただけます。
転職賃金相場2017 全文版ダウンロード

更新日時:2018年03月

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